Letters
なぜそれが好きだったのか、その理由が全く思え出せない。音が、メロディが、とにかく記憶のトリガーになっている。
もしかしたら過去の記憶なのかもしれないが、ひょっとしたら未来の記憶なのかもしれない。
記憶は空間をまたがって繋がっている。長い時間が経過した後でないと腑に落ちない記憶もある。
記憶というカテゴリーというよりは、本能というらせんに刻まれている。
そこに至るまでの道には幾重にも暗号化された層が存在する。
復号する確率は奇跡に近く、針の穴を幾度も通る必要がある。
360度四方八方から襲い来る信号に対して、確実な順番で身をかわし、心を翻す必要性がある。
脳みその中の電流をぐるぐると回し、そして脳の内へ外へ、じゅんぐりを回すような感覚だ。
しかしそれは起こる。
パンドラに賞味期限はない。
その秘密は誰のための秘密なのだろうか。
いったいどこに転がっているのだろうか。
喪失した本能を頼りに、今日も息を吸い込む。